BULL について

 もうここを更新していないことについては、誰かをちょっとばかし落胆させているかもしれないものの取り立てて驚かせることではないと思うけれど、忙しさに甘えて日頃の音沙汰を軽んじていたことに近ごろ改めて反省せざるを得なく思う。

度重なるご無沙汰になかばあきらめもまじえて、内橋さんに様子を訊いて下さる方々。失礼してほんと、スミマセン。

来週に迫った公演、『BULL』のリハーサルに連日追われている。
ここではかなり唐突であるけれども、先日夏の帰国時お会いした方々には申し上げていた通り、とあるお芝居に音楽を作ることになった。経緯はこんな感じ。

一年前、大学の独語コース秋冬クラスで、とある同年代の女性と知り合った。
イタリア人とアメリカ人のダブルである彼女は最初、自分を翻訳家と言ってたけど、実は彼女は舞台女優としてもすでにアメリカ、イギリス、フランスで活動していた。2人目が生まれてからしばらく休業していたけど、こんどパリで公演した朗読の作品をアレンジしてウィーンで公演しようと思う、とはじめて聞いたのは冬の終わり頃だった。
「あなたが気に入れば、あなたのこと巻き込みたいと思うのよ」とはじめに言ったのは春先だったか。その後、会うたびに構想を聞かされ、思いつくことを話し、そのうちメールで脚本が届き、思いのほか面白かったもので率直に感想を伝えたら、プロジェクトに参加して欲しいという。はじめは制作仕事でも頼まれるのかな、と思い、できなくもないけど、この“個性的な”英語と“可愛らしい”ドイツ語ですよ、ウィーンに友達はいくらかいるけどその人脈はちょっと偏ってますよ、と言うと、「うーん、そうね、…何か、もっとクリエイティブなことを」と言う。
とはいえ脚本は決まっているし、2人芝居のキャストも決まっている。演出家はパリから招くという。脚本には、特にライティングや音楽についての記述も無いので、特に必要な効果もないような…。
夏のある日、ビリーと湖畔のサイクリングに出かけたあと、何気なくこのオファーを話してみたら、ビリーはぱっと明るい顔で言ってのけた。「あなた、音楽しなさいよ」。半信半疑で受け流したものの、あくまでフランチェスカ(俳優兼脚本家)を助けられるんじゃないか、というスタンスで「わたしでもできるかも」と思い至り、打診してみた答えは「“Sound"s Good!」だった。

かくして、わたしの唐突な音楽家デビュー(?)が決まった。

こうして夏の帰国中は、稲田くんや文章くん、はるななどに会うたび、「いやーひょんなことでねぇ。フィールドレコーディングでも録り貯めて、何かできるかなーとか、思うのよ」なぁんて、結構のん気に言っていたのです。
なぜなら… 来年だと思っていたから!!
いやもう、ビックリしました。
日程については、昨冬にチラッと訊いただけでしたから、しかもその時はホントに自分が参加すなんて思ってもみなかった。
帰国後、会場のWEBサイトで公開されたインフォメーションを見て、久々に血の気が引いた。音を立てて。
なんせ、「来年の10月」と思い込んでいたのが、今年の10月だったのである…。
その時点で、内橋さんの次の渡日まで2週間を切っていた。
呆然とする私のそばで、彼は大慌てで入手可能で習得可能そうなソフトウェアを探しまくった。結局、彼が使うソフトの廉価版を購入し、短期集中講座を開いて頂く。続いて、口述作曲に従ってギターを弾いてもらう。録音する。

コツコツコツコツ、内橋さんが日本に戻ってからも日々コツコツ、日夜シーケンサーソフトと選曲に取り組み、奇跡の一ヶ月が過ぎた(大袈裟)。


で、来週。やります。

『BULL』〜ある女性の告白と「共感」についての物語。

選曲するシーンには、親友・稲田誠と亡き大原裕の曲(船戸さんの演奏から)を選んだ。どちらも個人的な思い入れよりもなお、シーンと楽曲のマッチングが素晴らしい。パーパの曲には、脚本家が「…Music, yes, music. ...this is great, this is so, ...special!」という台詞を書き足した。大原さんの曲には出演者2人がすこしばかりダンスを踊るのが付け加えられた。どちらも、劇中可能な最高の敬意を音楽に捧げられた感じで、選曲家冥利につきました。

ほんの小さい小屋で、ほんの数人で手をかけ、おそらくわずかな観客の前でだけ披露される小品ですが、思いっきり大事に作りました。たぶん、大成功します。観に来れない人、成功を祈っておいて下さい。



http://www.wuk.at/index.php/kultur/termin/1630824230/termin_kalender_alles.html