クリスマス会がありました。

 慌ただしく日本旅行を終え、最後の最後に電車に忘れ物しつつ帰路についた母子。
旅のことも記録したいと思いつつ、14日の木曜は小学校のクラスで「クリスマス会」がありました。

だいたい、火曜の夜にフラフラで帰ってきて、水曜の朝には「学校とホルトに行きたい!」と平気な顔して言う香音。「えー、今日はお休みしようよぉ」と言いつつ、ホルトに行けばちゃんとしたランチにありついてくれる訳だし、わたしも手続き関係の期日だから行かなきゃいけないとこもあるし、うへぇと唸りつつベッドを這い出す。旅行帰りなんだからと言うせめてもの甘えで、堂々と2時間余り遅刻して登校。たった10日とは言え、日本語たっぷりで気楽な時間を過ごせた香音にとって、また異国の学校に戻るというのはどうだろかとちょっとだけ心配もしたけれど、教室のドアをそっと開けるとちょうどお部屋中央の赤いカーペットの上でみんなは集まっていて、和風で言うとホームルームの時間か何かだった模様。想像したよりも何倍ものボリュームと高音で「わぁっ! カノンだぁ!!」とみんなから歓声が上がった。嬉しそうに立ち上がって手を振ってくれる子もチラホラ。先生も満面の笑顔で駆け寄ってくれた。挨拶をしてるともう香音はみんなの輪の中へ入って行って「まま、ばいばい!」。おみやげのおやつを渡して教室を出ると、香音にはもうひとつ、帰ってくる場所ができてるんだなぁとホッとした。

午後、ホルトへお迎えに行くと、いつも通り樹木希林先生が温かく迎えて下さり、早速おみやげのおせんべいのお礼を丁寧に言って頂く。
不思議なんだけど、このシスターにお礼を言われると、いつもなんだかとてつもなく良いことをした気分になる。物凄く特別な寄進でもしたように。みんなで食べられる量の、とはいえごく簡単なおやつのお土産だけなんだけど、里帰りのお土産なんてみんなしないのかな、いやそういう問題じゃないだろうな。この世には、何事も心から感謝して、そうした時かならず相手にその深さとか厚さがずっしり伝わるタイプの人が居るんだ。とか思った。

帰路、いつもの大通りをぶらぶら歩く。
10日ぶりの学校もホルトも楽しかった模様。やっぱり嬉々として、足どりも軽やかである。ホッとしつつ歩いていると、クラスメイトのマックスのママが。
ちょっと立ち話をしてると、「明日は午後4時からクリスマス会よ」とのこと。??? そうだっけ??? 午後4時からかぁ何やんのかなぁ。そんな時間って、自由参加? とか思いつつ当日。

そしたらアナタ、自由参加どころか年中行事でしたよ。
ギリギリ行ったら人々はすっかり集まっている。子ども達は別室で集まってるし、親達は教室の半分にぎっしり詰まって着席待機。三人目の担任のウーシィが香音を連れてってくれて、わたしは教室に。
代表撮影らしき3年生のお父さんはビデオカメラを構えてるし、見覚えのある両親たちに加えておじいちゃんおばあちゃん達も揃っている。生徒達の兄弟姉妹は最前列に座らせてもらっていて、舞台と成る教室の残り半分にはカーペットとクッションが並んでいる。
やがて子どもたちが入場し、最前列に一年生がならびその後ろに学年ごとに子ども達が1列6人計4列並んで床に座る。開会の挨拶は4年生の女の子二人が出てきて「……携帯の電源はお切りください」の下りにみんな笑う。
小一時間ぐらいだったか、合奏や合唱、詩の暗唱などを1〜3、4人、または学年ごとやその組み合わせで順々に披露する。誰かが演奏したり暗唱する時は立ち上がり、みんなは座って待つ。ひとつひとつはそんなに難しくはなく、それゆえ緊張感も薄い。緊張感薄いゆえの失敗が散見されるほどである(苦笑)。
子ども達は時々親に手を振ったりしてるし、親もニコやかに眺めてるだけで特にハラハラ見守るという風情でもない。
肝心の香音はと言うと、私とウーシィのそばに席を用意してもらっているけど、合唱には「わたしも!」と列に並びに飛んでゆく。一年生と二年生の3人の女の子が暗唱する「これはなんでしょう?」という4、5行ほどのなぞなぞには、香音も張り切って参加。ほんとは最初の1行を香音に言わせてくれる演出だったみたいだけど、香音がずーっと待っていたので(苦笑)、結局女の子達みんなで暗唱。香音はちゃんと言えてないものの、なぜか各文の文末の単語は全部言っていたので、なんとなく“きっとほんとはもっとできるのね”という雰囲気が出ていてヨカッタ(笑)。
実はこの暗唱、二週間ほど前にプリントを持ち帰った時はビックリ。なかなかの分量を暗記? うわぁ無理! と肝を冷やしつつ、「でも、もしかしたら、先生は“これくらい、頑張ったらできるんじゃない?”と試してくださっているのだろうか」と、過大な期待でもなんだか嬉しくなってしまった。で、後日先生と話すと、いやいやそうでもなく「ほかの子達に課題を出したら、カノンもぜひやりたいと言うので…」と苦笑していた。なーんだ、そっか。それにしてもわたしの楽観的ポジティブ思考、凄いなぁ。
などという経緯があってのこの暗唱、飛行機の中などで気軽に練習していたけれど、あんまり熱心にすることはなかった。それでもこの程度はできたんだから、もしかしたらもっと頑張ったらもっとできたかも…と思いつつ、かといってもっと練習してたらもっとプレッシャーもかかっちゃっただろうし、今回はこれでヨカッタとしようと思った。なにせ、終了後何人もの大人たちから香音のドイツ語、それと歌好きっぷりを褒めて頂いて、まぁこういう会の目的は達成されてたんじゃないかと思う。

「だしもの」というにはステージらしいものも無いし、劇やなんやと言うほどの大掛かりな催しとも言えない。
片親が英語圏出身でバイリンガルの子は英語詩の暗唱があったり、得意な楽器を披露する子も居たけれど、どれも微笑ましい程度の難易度。
日本のこういった行事は、ある種日頃のまとめ、成果の発表と言う側面が強く、練習も厳しいし相当のプレッシャーもかかってしまう。それゆえ“やりとげ感”みたいなものも強かろうし、教育的意義は認められるだろう。
それを知る人には物足りないかもしれないし、拍子抜けするかもしれない。実際、町田の幼稚園では、自分の子どもがもっとできるのに比較的難易度の低い配役や楽曲だったことに落胆したという親にも会った。まぁそういうものかもしれない。
おそらく根本的に違うのは、準備期間の配分じゃないか。日本では、行事に教育的側面があるゆえ、授業時間に練習時間の枠を割く。発表会に向けて気運も上げて、年中行事前はほぼそれ準備一色になる。
一方今のクラスでは、直前でもピカソ展見学だとか課外授業もしっかりあるし、休んで旅行すると言えばまぁ素敵と送り出される。ぼんやりしてたら前日までクリスマス会の存在に気づかないほど。上級生でも、このために日夜練習に励みましたという痕跡は、可笑しいほど見えないのだ。日々の生活の合間合間にちょっとやっときました、程度のものだし、だから当日もとても気楽で気軽。
どっちが良いかは好みだ。わたしは心臓に羊毛が生えてるタイプなので、人前でイイトコを見せたがる子だったと思う。与えられた配役に「もっと難しいことできるのに」とぶーたれた記憶すらある。けど、羊毛が生えてる心臓はノミの心臓だったので、実際には本番でショメショメした声でパッとしなかった覚えもある。


終演後は廊下で、親達の持ち寄った軽食と飲み物でパーティだった。
クリスマス用のお菓子からハム、チーズ、パンや誰かのお手製のサラダなどごちそうが並ぶ。わたしはまだまだ旅の疲れもあるので、今回は空港で買った“柿の種”を持参した。これがまた、大人も子どもも喜んで食べてくれてよかった。日本のおやつは特におせんべいやおかき類だとたいへん喜ばれます。

「やっぱり、旅のタイミングが悪かったでしょうね。もっと準備できたら良かったかもしれないですね」と、担任に言うと、担任のドリスは「とんでもない!」と言う。
「故郷を訪問することはとっても大事なことだし素敵なことです。行ける時に行かなくちゃ。クリスマス会に帰って来てくれただけでも、私たちは嬉しいですよ」と言ってくれる。もうひとりの担任のスザンネは、「きっと、来年はもっといろんなことを試せるでしょうね。それがわかっただけでも、大きな成果ですね」と言ってくれた。


京都の寺町にある民族楽器店でカリンバを香音に買ったのだけど、その話をすると先生が“来週から音楽の授業に必ず持たせてください”と言われた。
このクラスでは週に二回、音大から先生がいらしてなかなか充実した授業をするらしい。縦笛が基本らしいけれど、香音にはまだ難しいので買っていなかったので、“何か好きな楽器があったら持たせてくださいね”と言われていた。先生たちはカスタネットでも何でも…とおっしゃっていたけど、カリンバだったら音色が優しいから少々可笑しくても耳障りじゃないし、両手でちゃんと持つものだからいいんじゃないかしらと思ったけど、実際先生がどうやって指導するのかは謎だ。でも、正当派プレイが普及してない分、型通りの技術も問われないからいいんじゃないかしらと、勝手に想像する我々。このカリンバは先日大阪でフェスティバル
終了後の宴会にてみんなが代わる代わる鳴らして遊んでいたもので、香音にとってもすでに思い出の楽器。来週から、香音ちゃんはカリンバでウィーン音大の先生の授業に参加(笑)です。


大人たちがスナック片手に談笑している傍で、子ども達はわいわいきゃあきゃあと走り回っている。みんな、年齢や性別を問わず入り乱れてじゃれあう様は、まるで小犬の戯れのよう。そのうち8人ほどの子ども達が廊下の向こうの方で「だるまさんがころんだ」をはじめた(関西では“坊さんが屁をこいた”ってアレである)。4年生のテレースちゃんに手を繋がれて、ルールもわかってなさそうだけど(苦笑)ちゃんと混じっているではないですか。ちょっと前までは、こうやって皆に混じってゲームするなんて到底無理だったのに、こうしてみんなに混じって遊ぶ後ろ姿に母ちゃんはうっとりしましたよ。途中、友達の手を振りほどいて戻ってきた時にはゲッと思ったが、「おなかすいた!」と言っておやつを頬張ったらまた一目散に戻って行ったのでまた一安心。

そろそろ流れ解散ですよというところで、数人のお友達や先生に囲まれてごねてる香音を発見。
あぁもう疲れたか、電池切れかなと思ったら、なんと「おうち、かえらない! ここにいる、ここでねるの!」と言ってるではないですか。「でもみんな帰るんだよ、学校にひとりで泊まっても、つまんないよ、退屈だよ」とみんなに諭されている香音さんでした。



そんな香音だったので、最後の最後まで残って後片付けを手伝い、ご近所のアレックスくん母子と4人で大通りを歩いて帰りました。
冗談を言ったりふざけたりしながらぶらぶらと、そして最後にうちの前で「ブンシュ飲みましょうよ」と季節限定開店の季節酒スタンドに立寄り、ほのぼのとしたクリスマス前の一夜を終えました。


明けて本日金曜は、ウィーンのラジオ局をクラスで見学してくるそうです。来週いっぱいでクリスマス休暇に入るので、慌ただしく帰ってきても一週間ちょっとしか学校はないのだけど、それでも1年のうちのちょっとした良い時間、大事な時間にお友達と居られたということで、帰ってきた甲斐もあったというもんです。
たとえ帰りの成田行き電車にカバンひとつ忘れたとしても。飛行機のトイレが3カ所も詰まっていて、最後の1時間は全トイレがアウトだったとしても…(実話)。