一年生前半戦、お仕事の成果

 ウィーンの小学校にて、初の三者面談がありました!

日本育ちの我々には大変馴染みにくいことですが、今週末で学期が一旦終わります。9月から5ヶ月、しかもクリスマス休暇を挟んでるから5ヶ月弱じゃんと思うものの、「学年の半分が終わった」ことになるそうな。日本だったら、10月の運動会よりちょっと前くらいのタイミングかな。だとすればまぁ、半分かな…。


時間に教室へ行くと、間もなく香音の前に面談があったラリッサがお母さんと出てきた。ラリッサは香音を見つけると両手を広げて「カノン!」と声をかける。香音が「らりっさ〜!」と駆け寄る。軽くハグ。美しい(笑)。

先生と握手し、挨拶して教室へ。
ドリスが香音の前に座り、私の横の香音を挟んでスージーが座る。スージーはトレイにいろんな教具を載せて前に置いている。
テストと通知表が無いこのクラスは、モンテッソーリ形式で各自が個人計画を立て、毎日の「お仕事の時間」はそれぞれ“自分で”仕事(勉強)し、学期末の面談でその成果を三者でチェックし、来学期の計画を立てる。香音は自分でまだ計画は立てられないので、来学期の計画に関しては休み明けに私と担任が時間をかけてゆっくり相談することになる。
さて、本日の“今学期の成果、報告”。
スージーはまず、入学していちばん最初に作られたクラスメイト全員の写真を綴じたファイルを取り出した。
「あなたのいちばん最初のお仕事。みんなのお名前と、みんなの大好きなもの。こんなに分厚いファイルを勉強したね。すごいね」とページをめくる。“カノンはハリネズミが好き”“ロマーナは食べることが好き”“エリアスはカノンが好き”etc.、アルファベットを手話で現したりしながら覚えた内容を、ゆっくり確かめながらページをめくる。
次第に香音は集中力を発揮しはじめる。もうすでにやったことを今あえてやって、成果を確認する意味が、何となく分かったのか。
そのあと、数字を覚えはじめたこと、書き方、お絵描きのいろんなヴァリエーションのお仕事、国語と算数両方の要素がある教具でのお仕事など、日頃やっていることを次々にダイジェストで,スージーと香音はやって見せてくれる。
時々ドリスは声をかけて応用的なことをさらに試させる。
例えば、あるトレイに □□=□ と大きく書いてある。最左のマスには小さな積み木の三角があり、残りのマスに別に用意された4色の熊のフィギュア、4色の粘土を選んでいれる。マスと=を指差しながら、Der Bär ist blau.(この熊は青です)と言う。
また、別のトレイでは、決められた色のマスに“Ein rote Bär steht da.”と、言いながら各色のフィギュアを置く。日本語には馴染みの無い冠詞einやderを、最初から丁寧に必ず押さえつつ進めるのがよくわかる。
いくつものお仕事(課題)をちょっとずつやってみせてくれたが、香音がゆっくり、着実に集中していくのが横でよくわかり関心しきり。
思っていたより数倍の量を見せて貰って、最後にスージーとドリスはこんなことを香音に約束させた。
「お仕事する時に大事なことは何?」
「ひとりで(自分で)しずかにおしごとする」
「次の学期には、カノンもそうするって,約束してくれる?」
先生はどちらも結構なスピードでしゃべる。私には理解できない時すらある。これが日本の小学校だったら、もっとゆっくり話しかけ、もっと幼げな話し方で接されると思うんだけど、ちょっとビックリするほどマトモに話しておられた。香音はじーっと聞いて、神妙に集中して、しっかりと返事している。その横顔は不思議なくらい知性的(笑)。以前はもっと、心ここにあらず、といった感じの“空っぽな返事”をしていたような気がするんだけど、随分しっかりと話していて驚いた。

ひととおり実演が済んで、スージーと香音は教具の片付けをはじめた。
決められた棚にどんどん片付けていくのを、香音は素早く手伝っている。いろんなことを随分きちんと覚えて、先生の指示も理解して対応するのを見て心底驚いていると、ドリスが小さい声で私に「カノンはこの半年、随分たくさんのことを学びましたね」と感慨深そうに言ってくれた。
ほんとうに、その通り。
何を覚えた、どれをできるようになった、ということだけで数えたら、具体性に欠けるかもしれない。顔つきや、振る舞い、手つき、人の話の聴き方、返事の仕方、何かをやってみる“試み方”、じっと考える様子。総合的にながめたら、その成長はほんとうに著しい。

面談を終えて先生とご挨拶して教室を出た。
私も香音も満面の笑みである。
面談はテストでもないのに、香音にはなんだか「やり遂げた」というムードさえ漂っている。頑張ったんだねー、凄いねぇとガッツリ褒めると、香音も心から満足げな様子。満足、本当に満足である。


今週末から10日間ほどの休暇があり、2月からまた新しい学期になる。
2学期からは、個人計画のプランニングにわたしも参加する。そのうち先生は本人と相談するようになるんだろう。
母語も違い、いったい香音のどれほどを理解してもらえるのかまったく不明であったのに、あっという間に先生たちは“香音のプロ”に成っていた。時として私たちよりも確実に香音の力を引き出してくれるし、実現してくれる。まったく,毎度敬服、毎度感服…。

 いやぁ、正直ここまで期待していませんでした。
基本的にノートやファイルは学校で先生方が管理され、宿題(ホルトでする)があれば当該プリントやノートを持ち帰るのみで、私はそれらを拝見しつつ、へぇこんなことやってるんだ、こんな風に学ぶんだと観察&感心していたのだけど、そんなのはほんとうに香音のこの半年の学びのほんの一部でしかなかったと痛感しました。バランスよく、総合的に、前進していたのがじんわ〜り伝わる時間でした。先生の語りかけを、かしこそうな顔でじっと聞いてる顔なんて、私らには見せてくれない顔(苦笑)。
人間が子どもが成長する過程って、ほんとに美しいもんですね。そのプロセスを高感度カメラでゆっくり見せて貰ってるようなものです。先生方には感謝の気持ちでいっぱいですが、こんな風に子どものプログレスを見ることができるのは教師冥利に尽きるんじゃないですかと思ったり…。
うーん。8才の子どもにする36才の心配なんて、つまんない錆びたイマジネーションでしかない、するだけ無駄ねと痛感しました。子ども完勝ですよ。

そういう訳で、来学期も母ちゃんは健康に毎日登校できるように、ハッピーに出かけ、ハッピーに帰ってこられるように、それだけを徹底してあげられるようにがんばります。
わたしも何かとやることが増えてきた新年なので、母子ともに充実した年にしてこましたろと、思ってけつかりますねんからしかし…。