爽やかな春です。

デザイン作者のお手を煩わせつつ生まれ変わったホモセンチメンタリスちゃんです。

久々に1月2月と立て続けにお仕事を承り、サザエさん並みにバタバタとこなしつつあっという間に月日が経ち。
気がついたら3月でそして特筆すべき幸運ぶりで新居を獲得した今は、もう春。
デザインも一新できたことですからまた、コツコツちょいとずつ書いてきます。

それにしても今日はお天気が良い。好日です。そろそろ荷造りをはじめんとね。


ところで。
昨夜から、香音が「ホルトに行かない」、と言い出した。日曜の夜と月曜の朝に。
実はこれ、二回目。
一回目は数週間前、こんな感じだった。
久方ぶりに日本の雑誌より記事執筆の依頼を得、連日取材に明け暮れていた某週。木曜日には朝から晩までの取材となり、一週間前から友達にシッターをお願いしていた。ミナちゃんは何度かホルト(学童みたいなところ)へのお迎えに行ってもらっているからはじめてじゃないし、香音もすっかり楽しみにしていた。が、直前に追加取材が入ってしまい、結局火曜水曜と連日ミナちゃんにお迎えを頼んでしまった。それ自体はビックリしつつ機嫌よく楽しんでいた香音さんだったが、金曜の朝「今日はホルトに行かないでおうちにいたい」と言い出した。この信号は見逃してはいけない、と察知して学校が終わる時間にお迎えにゆき、香音を出迎えた。(普段はホルトからお迎えに来て連れてって下さる)やはり「きょうは帰る」と言っていたけど、ちょうど通りかかったホルト仲間のポアチョちゃんって子が「カノン、ホルトに来ないの?」と寂しそうに何度も訊いている。今日は帰る、と言いつつ、ホルトの前を通りかかったところでどこからともなく美味しそうな匂いが。ホルトで用意されるランチか。それを嗅ぎつけた香音の表情がちょっと変わり(笑)、「ご飯だけ食べてくる?」と訊くとにわかに元気よく「うん!」と答える。ポワチョちゃんも大喜びで、ふたりは無事連れ立って入って行った。その日はランチを終えた頃を見計らってお迎えにゆき、原稿に取りかかるそばで香音は機嫌良く週末を過ごした。

で、今回は二回目。
昨夜ぽつりとのたまった時は、無理強いして行かせるもんじゃないしなと「行かなくてもいいよ」と言ったものの、寝静まってから考えるとちょと待てよ…。
先週の木曜日、お迎えに行ったときテラスは何やら不穏な空気。あまり見慣れない隣りのクラスの大きい女の子がひとり泣き、その友達がプンスカ怒っている。その向こうでは更にプンスカの香音。私を見つけて泣き出した。静観するクラスメイトや先生に説明してもらっても、子ども同士のよくあることである、ということ以外はハッキリわからない。でもシスターにしっかりおコゴトを言われた香音はちょっと凹んでいた。きっちり謝っていたので先生方はそれ以上何も仰らず、最後には笑顔でサヨナラだった。詳細がわからないし、香音も説明できないので私は敢えて注意もできなかったけど、「わからなかったら、怒ったりしないで先生に言うんだよ。悪いことされたり言われても、言い返したり叩いたりしちゃいけないよ」などとだけ言っておいた。金曜はとくに何もなく一日を終えていたけれど、なんかが引っかかっていたのか? じっくり思い出して悶々と考えた。やはり私は母ちゃんなので。どうしてもひいき目で見てしまうから、“香音なりに不条理を感じているに違いない。可哀想に”とすぐ思ってしまう。木曜も「叩いてごらんよ」と面白半分に挑発されたりもしたようだったし、正しくないにせよ、香音なりにプロセスがある場合もある。ない場合の方が多そうではあるが。そうすると、意地悪な子達の悪意から守ってやりたい気もするけれど、でも、挑発に乗らない、という学習も必要ではないか。もし挑発されてるのならば。
香音は、「ホルトにはいかない。がっこうだけいく。おともだちとあそぶの、ムズカシイから」と言う。そりゃそうだろう、難しいだろうよ。日本語でもうまく説明できないのに(随分できるようになったとは言え)、ドイツ語の世界であるから、ストレスもあろう。
が、待て。ムズカシイ? 
だったら慣れろ、やりこなせ。大体誰んちに行ってもそこんちの本棚の前を陣取って、「カノンと遊びたいのに遊んでくれない」とそこの子にべそかかれるほど本が大好きで本とばっかり遊んでる香音。やっぱりそんなままじゃいけませんよ。友達と遊ぶのが難しいのは、「できなさ」の問題だけじゃなく、やっぱり努力が足りないよ。
…ということで、今回は「行きたくなかったら行かなくても良いよ」作戦ではいけない気がしたので、朝になって様子を見ることにしたら…やっぱり行かないと言う。
「シューレだけにする」
「うーん…でも、お友達と遊ぶのが難しいなら、一緒に遊べるように香音も努力しなくちゃ。今日は行こう。お隣のクラスの大きい子達と遊ぶのが難しいなら、クラスの香音のことを大好きと言ってくれる子たちと遊ぼう。どうしてもうまくいかなかったら、先生と遊んでごらん」
「うん…シューレだけ?」
「いいや、ホルトも行こう。ママは香音ががんばると良いと思う」
何度かこの問答を繰り返したら、最後には「うん、がんばる」と言った。素晴らしい(苦笑)。
「困ったら、怒ってごねるんじゃなく、先生に甘えると良いんだよ」と妙な奥の手も教え(意外と切羽詰まると甘え下手になる)、学校へ。
ホルトでのことではあるけど、やはり一番の相談相手であるはずだと信じて担任の先生に報告する。何もしなくていいけど、こういうことがあったことだけ、覚えておいて下さい、と。やはり先生は充分理解して下さり、「無理して行かせることはないけど、社会性は身につけるべきですからね」と同意してくれる。ホルトの先生にも事情を聞いておいて下さるとのこと。その横で香音は、相変わらずクラスの子たちとワイワイ楽しそうにしていて、ここがこんなに居心地がいいなら、午後ちょっとくらい苦労したって大丈夫だよね、と思いつつ、学校をあとに。

月謝の支払いもあったのでホルトに寄ると、シスターではない方の世話役の先生がいらした。
ドイツ語で細かい話はできないんだよなぁ…と億劫になったけども、何も言わないのもやはりよくないわと思って、できる限り話してみる。
すると、この先生にすると事態はいとも単純であるようで、大丈夫、と仰る。
先生の見地では、隣のクラスの大きい子が香音を怒らせる、怒ると香音はやんちゃになる、と。時には香音が先に悪いことを言って、大きい子を怒らせると。行きたくないと言う気分は一過性だろうし、同じクラスの子たちは香音をたいへん可愛がるやさしい子たちだし、大丈夫、そのうち収まります、それまでちゃんと見ていますよ、とのこと。
かつてこちらに来て半年ほど居た幼稚園では、こういうことがあると「香音が悪い」と言われて閉口したけれど、おそらく同じような状況でもここではもっと大らかに見て頂けている様で、親として弁解する必要もなく思われ、取り敢えず、ではよろしくと笑顔で帰った。
…とはいえやっぱり気にかかるから、お迎えに行く頃は結構気が重かった。
が。
ハードな一日を過ごして凹んでたらどうしようかしらと思いつつ迎えに行くと、思いも寄らず晴れやかな笑顔。
お友達と大縄で、跳べもしないのに縄跳びをしていた模様(笑・時々、“わたしも〜♪”と乱入しては、気がすむまで真ん中でぴょんぴょんしてるのを見たことがある。クラスの子たちや男の子でも、苦笑しながら付き合ってくれる子もいっぱい居るのだ。そんな子たちも迎えに行くとたいてい安堵の笑顔が漏れるが、それでも嫌な顔せず付き合ってくれる優しい子たちだ)。
もう訊かなくても良いくらい、今日の香音は晴れやかであった。先生方も特に何も言わずただ笑顔で「明日も来るよね?」と言って、香音もJa!と答えている。
先生は「一階にいるターニャに会って行って下さい」とだけおっしゃったので、行ってみるとそこは補習室だった。

毎日、多くの子たちはランチのあとにクラスで担任たちと宿題をする。香音はやはり手がかかるので、更に少人数でターニャさんに丁寧に見てもらっているらしい。その時も、ターニャさんはふたりの女の子と丁寧にお勉強していた。
ターニャさんは簡単に英語で香音のホルトでのスケジュールを教えてくれた。そして、香音は毎日宿題や復習をとってもよく頑張っていますよ、と教えてくれた。私が心配していた先週のことを言うと、「ああ、香音が“悪い言葉”を使うんですよ」と笑って説明された。「ちゃんと注意されているから、いずれ香音もすぐわかるようになるでしょう」と、なんだか励まされてしまった。お恥ずかしい。


思っていたよりも、ホルトでも香音は頑張っているのかもしれないなぁ、と思いつつ、やっぱり心配のしすぎが良くないことを痛感する。
良いことも悪いことも、香音がわたしに伝えきれることはほんの少しでしかない。いやそれにしても、今日の香音は機嫌が良い。わたしも杞憂が晴れてハイになりそうになりつつ、やっぱり香音はラッキーな子だとつくづく思う。


帰路、フォシューレでいちばんの仲良しになったルイザちゃん宅に、生まれたての赤ちゃんをのぞきに寄る。
土曜の朝に生まれた第三子は、即日でおうちに帰り、週末を過ごしていたのだ。生まれたての赤ちゃんはめちゃめちゃ可愛い。香音も大興奮。お母さんのアンゲリカも、やはりこの一年で最も幸せそうだ。アンゲリカが、香音が生まれた時のことをいろいろ聞きたがったので、できる限り話してみたりしてる。アンゲリカは、「この一年でカノンは随分ドイツ語が上達したわね。きっと日本語もそうなんじゃない?」と言う。最近の香音のドイツ語の上達ぶりはもはや私の把握できないレベルで、何かよくわからないけどやたらわかっている…という感じ。そして本人も、試したくって仕方ない、という様子の時が多い。子どもでも大人でも、片っ端から試して質問攻めにしてる。日本語も、なんとも言えぬ、ニュアンスが豊かになってきている様子だ。そういう訳で、わたしは近頃、香音と話す時はなるべく使ったことのない表現や新しい言い回しを使うように徐々に意識している。


ときどき、呆れるようなバカをするので烈火の如く叱り飛ばしてしまうんだけど、だけどやっぱり、探しても見つけきれないくらい褒めてやるべきところがあるんだわきっと。と思うようにして、あんまりガミガミしないであげたいなぁと、ふと思ったりした、月曜なのであった。