はじまりは終わりを含んでいた。

 本日はコンフォートオブマッドネスの「シクソトロプス」、発売記念レセプションである。古い建物の奥にある、私にはとてもヨーロッパ的に感じられるギャラリーで、盟友ヘルゲ、フランツとのコンフォートオブマッドネス、FBI以来のそろい踏みである。ヘルゲはたくさんのプレス関係/評論家に招待をかけ、アドミッションフリーでこのレセプションを仕掛けてくれた。内橋さんをウィーンの業界人に紹介する目論みである。彼は前日から、自分で決めたメニューにのっとるため、うまいピクルス類や赤ワイン、パン、そしてブラッドソーセージと言う、激ウマ珍味を買いそろえていた。ふんだんに用意されたそれらも、すべてフリーでふるまわれる。うまい。いくら喰っても幸せだ。とても限られたメニューであるにも関わらず、集まった人々はそれらを嬉々として平らげている。8キロ買ったと言うソーセージも、(前日には「人が集まらなかったら3キロずつもって帰ろうな」とか言ってたけど)結局訪れた人々の胃袋へと無事おさめられた模様。若い敏感アンテナな子たちも、アートな面々も、むっつりしたおじさん達も、ついでにどっからわいてきたのかと言うくらいパンクな吾人たちも、皆さんイイ感じでエンジョイミュージック。トリオに続いてセッションと、素晴らしい内容であったし、人出もシルヴィア曰く「この会場にこんなに人が来てるのを、私は見たことがない」そうである。
そんな素敵な日であったが、なんとヘルゲはこの日をコンフォートオブマッドネス終了の日と決めていたらしい。このユニットはヘルゲのもので、内橋さんが加わるまでにもいろんなメンバーでやっており、音楽的にも変容してきたもの。フランツ、内橋とのトリオとなってからしばらく続いていたけどとりあえず、このアルバムを世に出したところで一端リセットするってことだろうか。これには内橋さんも驚いたらしいが、「ヘルゲらしいなあ」と笑っていた。今後も勿論、ヘルゲはフランツ、内橋さんと共謀するのは明らかである様で、このプロジェクトが終わってもまだまだ今後が楽しみだということである。
香音はこの日のパフォーマンスも大喜びであった。こっちの人は、音楽の展開次第で爆笑することもあるが、今日も二回、爆笑ポイントがあった。一度目は言葉では到底説明不能なんだけど、なんというか、あるとき内橋さんとヘルゲが瞬間的にもの凄く忙しそうになっちゃったとき。なんだろう、おそらく書き慣れた人なら“絶妙なコンビネーションによる丁々発止のかけあい”とか言うのかもしれないけど、そう言うとちょっと馴れ合いみたいなニュアンスが臭うのでちょっと違うなあ・・・。ただ言えるのは、純粋に音楽で、しかも音楽的にコミカルな振る舞いではないことで笑いが起こった。しかもそのポイントは香音のツボとも合ったみたいで、観客が笑うのを香音は凄く喜んでいた。“なんだ、笑って良いんだ!”って思ったんじゃないだろうか。そうだよ、笑っていいんだよ、って、一緒に笑えるのがとても嬉しかったです。
二度目が滑稽だったことに、それはなんと高揚してテンションが張りつめる頂点のその寸前に、フランツのトランペットからパーツがピシュッ! とすっ飛んでしまったのだ。これはちょっともうコントみたいで、笑いが収まるのに数秒が必要だった。しかし総てが完全即興であるにもかかわらず「もういちど同じポイントから」とフランツが声をかけて一瞬で、彼等はすっとまたもとの世界観へ戻って行った。もちろん、あのときパーツがすっ飛ばなかったら、音楽的にはどんなトキメキが待っていたのか想像しても足りない。おそらく「戻った」とはいえ正確には戻ってないのかもしれない。それでも、まぁいわゆる阿吽の呼吸なのかな、アクシデントを同じ呼吸で乗り越えられる意気が感じられて、非常にオットコ前な演奏でした。
久しぶりに会った人、引越しちゃったからよろしくね!な人、そしてはじめまして、よろしくね、な人、たくさんひとに会いました。すごくトクしそうな、都合のいい出会いはなかったんだけど、だからこそ自然で良かったかな、と思っています。ネットワークと言うのは、ゆっくりと構築するのがいいもんね。