この週のメールより。

25日の月曜に、日本の恩人の皆さんに同報メールにて送った今週の香音の様子です。
メールをお送りしていない恩人の方、失礼しました。
お読みくださるならお送りしますので、メアドを下さい(おそらくこちら、消失してます)。
よろしければご助言を・・・。

*********************
皆さま

香音のこちらでの様子などを、日本での彼女のあゆみにご厚情下さった方々にお知らせしようと思い、同報メールで失礼ではありますがお送りしております。
長文でもありますので、お時間のお有りの際にご一読頂ければと存じます。(ごめんなさい!)
**********************

お元気ですか?
(ネット状況が整っていないので、本文は先週21日の執筆です。)

暖かくなったかと思ったら、今日はコートに慌ててマフラーを巻くくらいの寒さでした。
こっちの表現にも、「4月の天気」とかいうのがあって、それは変わりやすい天候を指すのだとか。冷たい風がやたらとウールのコートを刺すので、こちらの人が皆ウインドブレーカーを着ているのにも納得です。今日内橋さんが日本に発ちました。寒がりの彼は暖かな日本の春にホッとすることと思います。
それでも、陽のひかりがとっても明るいし、花もどんどん咲き、新緑も元気に芽生えているので、冷たい風に吹かれながらも春を感じることができます。ウィーンの春って、こういうもんなんだなあって。


香音がウィーン西のヴァルドルフ幼稚園にお邪魔しはじめて二週間が経ちます。
8:30から9:00の間に登園し、午前の保育は朝食(スナックタイム)を挟んで12時まで、毎日物語のようにオーガナイズされた時間をおだやかに過ごします。最初の週の月・火は私が、続く水・木・金と内橋さんが付き添いました。彼は留守が多くなるので、この機会に幼稚園を見ておいて欲しかったのと、付き添っているとハラハラして仕方がないので代わって欲しい、と言う甘えもありました。結果、内橋さん自身が幼稚園を知るとても良い機会となったし、それに香音がどんな風に頑張っているか、そのサポートの仕方もたいへん勉強になる機会となったようです。また、ふたりの担任の先生にも、香音を理解する一助になったのではと思います。(ちなみに「あなたはゲストです、カズにもどうぞ」とおやつをたっぷり貰って大喜びしてたら、おゆうぎでもオイリュトミーでも何でも参加させられたそうです。どうぞごゆるりとご想像ください)
心配なことも不安なことも折り重なった一週間があっと言う間に過ぎ、二週目にはいったら、なんともういきなり「では本日からカノンだけお預かりしましょう。カズは11時頃、いらして下さい」と、送り出されてしまったそうです。室内活動とスナックタイムが終わり、その時間はいったんお外遊びとなります。この日はお外遊びと最後の「集い」だけ彼が立ち会いました。
そしてなんと翌日には「通常通りお預かりしますので、お迎えは12時です。」(!) なんとまたスピーディな! 私たちはびっくりしてしまいました。この間も、かんしゃくを起こすこともあったり、お友達を押したりして注意されるようなことはあったみたいなのですが、しかしレギュラー入りは予想を超えて順調でした。


そして今日木曜は、私と先生おふたりとの面談が計画され、そのため香音は延長保育のランチも参加、ということになりました。「ともだちとごはんたべていーの? やったあ!」と、香音は大喜び。お昼頃、お部屋に行くと香音は他のお友達と大きなテーブルを囲んでいます。一応、午前のスナックタイムに軽い食べ物(パンやリゾットみたいな時もあり、必ずリンゴなどの果物を分け合って食べます)を終えて12時過ぎに「さようなら」までが一連のタイムテーブルですが、親が希望すればランチをみんなと頂けるようになっていて、それがまた美味しそうだこと! 野菜を中心とした、スープと主菜(ショートパスタやお米料理)が日替わりで本当に美味しそうです。見ていると、どの子も気が散ったりしながらもよく食べていて、おかわりする子も少なくありません。私が作るものとどこかしら似た感じがあるのか、香音も大喜びで食べていました。
ただ、どこのシュタイナー園でもそうなのか、スナックタイムにしろランチにしろ、「食事中は静粛に」ということがかなり重視されている様で、「おいしい!」とか「みんなでたべてるの!」とついはしゃいで口走る香音も(とても優しくですが)さとされていていました。しかしそれ以外はとても和やかに、美味しそうに、はじめての「会食」を楽しんでいました。

数日ぶりのクラスメイトちゃんたちは、以前よりぐんと柔和に香音を見てくれている様でした。何度も顔を見合わせて微笑み合う子もいたし、幸せそうな香音をにこやかに眺めてる子も何人も居ました。お水のサービスをしていた子は、香音が試しに「(もう結構です)」のジェスチャー(コップに手で蓋をする)をしてみたら、苦笑してひと呼吸待ってくれて、そして香音がもう一度笑いながら(たぶん「なーんちゃって」って気分なんでしょう)コップを差し出したところへそっと、お水を注いでくれました。子どもたちにとっては未だ、意味不明の独り言おしゃべりを楽しむ香音を、不思議そうにも「たのしんでるなあ」って感じで見守ってくれている様子です。先生も、おふたりとも数日前よりさらに数段、いとおしそうなまなざしを何度も向けて下さっていました。食事中の静粛のため、なんどか「シーッ」とたしなめられる場面もありましたが、よく食べ、楽しそうにはしゃぐ香音には目を細めながらうながして下さっていて、決して頭ごなしに注意されるようなことはありませんでした。
先生にも言われましたが、つくづく、親の付き添いがなくなって功を奏したのがよく解りましたし、ドイツ語がわからないままでも完全に通常の登園スタイルにさせて下さった先生方の英断に感謝しました。

ランチのあと、一旦先生たちと握手してご挨拶し、子どもたちは手を繋いだ長い列になって隣のお部屋へと消えて行きました。午後1時からは、他の先生がいらして隣室で「お預かり保育」の開始だそうで、香音も追ってそちらへと移動しました。隣室もレイアウトに若干の変化が有るものの、クロークとトイレの奥にキッチン付きの広いお部屋がありました。ふたクラスから、お迎えを待つ子どもたちが10人くらい集って遊んでいます。香音も仲間に入れてもらい、私は担任ふたりと面談にはいりました。

面談もやはりとても和やかに運びました。
先生方は、香音がとても積極的に、明るく、好奇心旺盛にお友達の輪に入って行く様子を喜んで下さいました。しかしまた逆に、日々の活動の中でも子どもたちが接近し過ぎた場合(わあっと取り囲んでせまるような時)、また周囲で子どもが騒々し過ぎる時、急に怒ったりして拒絶することがあることなどを、鋭く洞察しておられることも感心しました。そういった、ちょっとした“困ったこと”を的確に観察し、把握し、またそのことでもって決して子どもに評価を下さない、この姿勢は徹底しているのが見受けられます。
例えば面談の冒頭では、「おうちで着替えはどうしてますか?」と聞かれ、正直に「つい手を出して助けてしまうし、着替えを教えることについて私たちは怠惰なのです」と話したところ、「食事も上手にできる様子ですから、着替えも練習すればできるはずです。練習次第ですよ」と言われました。私たちも園で練習し、おうちでも同じくして下さい、そのうちできるようになりますから・・・。
決して、「お子さんは○○ができませんね」、「それではいけませんね」などと言われないのが、なんとも言えず有難いものでした。どうしても萎縮して緊張していた気持ちが、ふっとほぐされた気がします。


ずっと私たちが心配していたカンシャクについても、コミュニケーション不能の烙印を押すことは決してありません。「こんな変化に耐えているのだから仕方ないこと」と理解し、子どもたちにも繰り返しそう説明してくれているそうです。言葉で慰めたり説明したり理解させてあげることが出来ないのが時どき小さな問題にもなるけれど、それは時間の問題ですから、とも断言してくれます。生活が落ち着いたら、香音にもドイツ語のレッスンを受けさせるべきか検討中と言うと、「いちばんいい先生は子どもたちですからね」と笑ってくれ、また、一度聴いたメロディを自分の言葉で(おそらくデタラメ語で)すぐに唄えるのが凄いですね、ともおっしゃりました。
お試し保育のはずが、これだけ全面的にはじめからポジティブに受けとめて頂いているのですから、香音が日々リラックスして急速に馴染んでいくのも納得ができるというものでした。
また、印象的だったのは、
「私はカノンが泣いたり怒ったりして馴染めない様子の場面では、いつも子どもたちに“彼女はこんなに小さいのに、はじめての環境と、体験と、まったく違う言語の中で頑張ってるんだから、はじめは上手くいかなくても当然。みんなもここに初めて来た時のこと憶えてるよね”、と繰り返し話しています。私は決して、大病をしたことや彼女自身に問題があるといったような説明はしないでいます。子どもたちはそれだけで十分「そうだな、まぁそのうちおさまるさ」という感じで、意に介していません」
とおっしゃったことです。
もちろん、既病歴や香音特有の性質など理解された上でのことです。この方針にも、とても感心しました。


私も、内橋さんも、付き添っている間はこの園での香音の挙動に一喜一憂していた訳ですが、香音自身も私たちの反応、特に落胆にはとても敏感になっていました。昨日、ふたりでお迎えに行った際先生から、今朝香音が理由なくお友達を押して云々と言う報告を受けました。話は「まぁ詳しくは明日の面談で」と尻切れだったのですが、その傍にいた香音の表情が一変したのに気づきました。何かしら、自分の悪いおこないについて報告されているということを察知したようなのです。あ、と思って、とっさに私はすぐに香音のそばに行き、「楽しかった? さぁ、帰ってお昼ご飯にしようね」と心配させないようにしました。その後も、その話は一切せずに過ごしました。そして、寝る前に、ふたりきりになった時そっと耳元で「お友達を押したりしてはいけないよ。しないでね」と簡潔に言いました。香音は一瞬はっとして、「・・・はぁい・・・。」と返事しました。
ここ数日、私たちは香音の自尊心というものに注目していて、それ故の判断でしたが、このことを先生方に話すと「それは的確でした。子どもたちは本当に傷つきやすい。容易に傷ついてしまうものですものね」とおっしゃり、香音は英語の会話でも、時には主旨をかなり鋭く理解すると知り、これからは気をつける、ともおっしゃってくれました。
この園では、子どものうち誰かが誰かをぶったり泣かせたりした場合必ず、「謝らせる」だけじゃなく「行動」を起こさせるのだそうです。例えば誰かを泣かせてしまったら、ハンカチを取りにゆき涙を拭いてあげて、詫び、慰め、和解へと導くのだそうです。小さい子が大きい子を泣かせた場合などでも必ず。だから、“悪いことをした”で終わることは決してないし、そういう意味では問題は解決されているから、あとになって叱られる必要はないのです。だからこそ、安易に本人のそばで報告はしないようにする、と言われたのだと思います。なるほどなぁー、と思いました。

 余談ですが、しっかり者の年長の女の子(英独バイリンギャルです)から初日に「no one allowed to push anybody!」と注意されたことがありました。「誰もひとを押したりしちゃいけないのよ!」って感じでしたが、「Push」がこちらでは結構な「悪事」として数えられるようです。香音のことなので、「つきとばす」ようなことはできないので「ぎゅっと押しやる」という感じなのですが、その程度の「押す」でも御法度に数えられています。香音的には「ちょっとどいてよッ」って感じでも、先生がすぐさま参じて「これこれ押してはいけません」と必ず、かなりビシッと注意します。おそらく暴力の素因になるということなのでしょうけれど、これは日本と随分違うなあと関心しました。(でもね、公園とかに行くと元気な子がドッカーンと誰かを突き飛ばしたりもしてるので、この幼稚園での方針、というところだと思いますがネ。)



こういうワケで、香音は無事、あっけないほどスムーズにこの幼稚園に正式メンバーとして迎えられました。クロークの彼女のスペースには香音のシンボルマークとして手描きの「ハリネズミ」の小さな絵が貼られています。いくつかの中から香音が選んだそうですが、針に覆われてるのになんとも愛嬌のあるハリネズミと香音のイメージがちょっぴり重なってしまい、なんとも可笑しいです。どうしても、ふたりきりで食事することが多いので、来週からランチは園で頂くことにしました。香音も大喜びですし、私も大助かりです。お迎えは2時か3時として、私はみっちりドイツ語を勉強する・・・・・ことにしないといけません! そちらは始める前からスランプの気配濃厚、ではありますが、いやでももう、一生懸命頑張ります。
こうして、すこしずつすこしずつ、「生活を作る」という日々が続いています。

数日前に「内橋さんが日本に帰ったらどうしよう・・・」とかなり不安になっていたのですが、そのせいか実際にその日を迎えたら結構冷静に、そして当たり前のようにこの事実を受け入れることができました。どうやら私は想像力が逞しすぎて、実体験する前にあれこれ思い悩み落ち込むくせに、当日には悩み疲れて開き直っている、と言うパターンが多い様です。

今日は随分疲れたのか、ちょっと今日が寒すぎて風邪気味になってしまったのか、香音はイビキをかいて寝ています。
明日の金曜、ゆっくり幼稚園を楽しませてあげて、この週末はまずはゆっくりのんびり過ごそうと思います。
はてさて、このメールもいつお送りできるやら・・・。

***

金曜は(木曜がもの凄く寒かったので)早朝少し熱をだしました。(すぐに下がりましたが)
今日月曜は香音がとてもスムーズに登園してくれて、今日からランチは幼稚園で頂きます。今月いっぱいは1時にお迎えし、5月からは3時のお迎えの計画。
これから愛しのトルコ人街に行って、ウィーンでおそらく唯一の、ラップトップ持ち込み可能ネットカフェからお送りしよう思っています。


長々失礼致しました。
お気づきのことや、ご感想など、お聞かせ頂けると嬉しいです。

では、また!



内 橋 華 英