たまにはオナラやガスの話。

 同居人の転出騒ぎをどうにか荒技で収束させ、バタバタのまんまで千野家の母娘旅行をお迎えし(素敵なお土産ありがとう)、ほっと一息つく間もなく、本当になく、またもや同居人が母娘で帰ってきた!
母ちゃんの歯科医痛飲、いや通院、残ってる荷物の整理など、それ相当の用事があるとは言え早いなあ、しかも娘連れかよややこしいなあ、なんで一週間もおんねんなどなど、結構うんざりモードになってしまった性悪な私。帰ってきた途端せっかく片付いた家は瞬く間に散らかりはじめ、しかも今夜は娘のお友達が泊まりに来るとか来ないとか。もちろん相談もなく、私がヘルゲから借りてる寝具を使い、相談もなく私が借りてるスペースで子らを寝かせるとのたまい、そして相談もなく我がキッチンでどんちゃんやるに決まってる。ムカつく。いらつく。どうしても腹立つ。
だいたい、あんたらのキープしてるのは奥の部屋ひとつ、ちゃんと平米計算までして家賃分割を決めたではないか! こっちはまだまだ環境との戦い続く幼な子連れとんねん、我が物顔はええかげんにしなさい!・・・
・・・そしてつくづく私ってケチで性格悪いなあと再発見。しかし。自分が性格悪いと自覚するのは、性格良い人に成ろう成らなくてはいけないと思っていた頃よりも実はスッキリ、開き直れたりもするのだが、それでもなんで大らかにでけへんねんアタシ、と内省してみる。そして結局、だって3ヶ月以上遠慮して下宿状態、やっと我が家になりはじめたところだからねえ、仕方ないよねえ、と自分を慰めてみる。
 わかってる、わかってんねん、毎回子連れで帰ってくるワケでもないし、そのうちいやでも生活は落ち着くねん。アダもええ子やし(ワガママやけど)、エリザベツも人情家でええ人やし(勝手やけど…)、香音も喜んでるし(言うこと聞かんようになるけど)、顔見たらホッとしてなんか嬉しくなって、なんでもOKになってしまうもんやねん・・・。


と、うだうだ考えてるうちに、予告から丸一日遅れてご到着。案の定家は見る間にトッ散らかり、特製味噌ズッペを作ってくれと言っておいて出掛けてまうし、ああもう、なんやねん、ここどこやねん。
吐き出したらすっきりするかと思い、口汚いのは百も承知で書き連ね、見たこと無い人が読んだらさぞ自分勝手で典型的なヨーロッパ人を想像すること間違いない。実際、彼等がメッタクサにしていった部屋をひとり孤独に片付ける時の私の頭ん中では、不器用なくせに偉そうで頭でっかちなくせに応用が利かなくって、ジコチューでピカチューでヒカシューな欧州人像(最後のは違うケド)がテーブルダンスを踊っているよ。「他人像」なんてあいまいなものは、こうして頭ん中でモンスターみたいに増長するのよ。だってそこにはアナタはいないんだもの。失敗して苦笑いするハニカミも、落としたものを拾ってくれる気遣いも、けったいな英語や独語の私の壊れた物言いに辛抱強く耳を傾けてくれるあったかい何かも、そこにはないんだもの・・・。


エリザベツが帰ってきたら、さっそくそのペースに振り回されつつ、無理して合わせてはいけないと自制。それでも嬉しそうにまとわりついてくるアダは可愛いと思うし、自分の主張が強いのと同時にエリザベツは私の主張も実は丁寧に受けとめる(それでも結局聞き入れられることは少ないが)。私が食器洗浄機を使っていないと知ると、彼女なりに丁寧に私の食器を洗っている(かなりいい加減ではあるのだが)。
顔を合わすと、彼女たちの温度を思い出す。
香音の口をつきはじめたドイツ語に耳をそばだて、私の遅々たるドイツ語にも根気よく付き合ってくれる。いちいち褒めなくなった分、上達したやんけと思われてることが表情から感じられるので、私は臆することなく試せるのだ。(そう、先生とか友達の中でも、間違いがあると困惑したり顔が曇る人が居るけど、そういう無言のリアクションで初心者は萎縮してしまったりするものね。訊いてないのに教えたがる人にも萎える)
デイリーに顔をあわせ至近距離で生活してると、何をされた、何と言われた、ということ以外に実はお互いかなり温め合っているのかもしれない。ふだんとても簡単に「あったかい人」なんて言うけど、きっと本当のあったかさって言うのは、能動的な行為から感じるものではなく、受動的な時どんな人であるか、に見つけられるんじゃないか。世話焼きで万人の母、みたいな人は時として暑苦しい。とか言うと母ちゃんに叱られそうですが。

顔をあわすと、ああ私はこの人達を好きだったんだということを思い出す。そして少なからず、大事にされてること、好いてくれとるっちゅうことを思い出す。そしてすぅっと、憑き物が落ちるようにイライラやうんざり感が片づく。一番勝手だったのはやっぱり私だったってことか。


さっき、私の独英辞典をみて、今こっちに自分の辞書がないから時々貸して欲しい、と言われた。
時々必要なとき、思い立ったときすぐに訳を見つけられないと気になって眠れなくなっちゃうものね、と言う。確かに彼女は時々就寝前に辞書を見てる様で、何度か枕元にポケットディクショナリーが転がってるのを見たことがある。それは英語だったり伊語だったり仏語だったり。あら・・・! そういえばちょっとしたことを、朝一番に顔を合わした時に何か言うことが。そうか、そうだよね。ベッドで天井見つめてイライラしたりムカムカしたり、でも顔見たら怒れなくって中途半端に“お願いごと”みたいな言い方になったり、はたまた相手の無邪気な笑顔を見てしまったが最後どうでも良くなったりして、みんなそうしていろんなことを呑み込んだり吐き出したりしながら生きているんだ。そうだそうだ、そりゃそうだ。

 ためないように、ためないように。愚痴や不満はためないように。ため込んだらかえって不要なガスや有害物質を発生させる、生ゴミみたいなもんなのだから。有害ガスが出て窒息するのは、他の誰でもない自分なんだし。利息も生まない愚痴や不満は、もっと上手にこまめに吐き出すのが一番。さて、夕方帰ってきおったら、何から言ってやろうかい。