お誕生会 かけもち

 金曜日は幼稚園のクラスメートのお誕生会がふたつ、同時多発した。
ひとつはベンジャミンくんのが技術博物館で、もうひとつはヤコブとマグダレナの双子ちゃん誕生会がご自宅で。
香音は両方から招待状を頂いており、まだまだこちらの生活風習学習中の我々はどちらも伺うことにした。
そこはかとなく優柔不断な感が漂う決断でもあるが、双子ちゃんらは香音の誕生会に来てもらってるし、ベンジャミンくんは妹と昨9月から入った6歳で、人が少なかったらカワイソかなーとか、ふと思ったり。しかも彼は先週、登園時に顔を合わすと「カノン! ぼくの誕生会に来るかい!?」と威勢よく誘ってくれたりして、ぜひとも祝いに駆けつけたいってもんだこりゃ。


技術博物館って訳せばイイのかな、ここはシェーンブルン宮殿のそばの古い建物を内部改装したところで、製鉄、造船、鉄道や自動車、航空全般などあらゆる技術の歴史を模型やら本物の展示で紹介している。前にも「子どもと行ったら楽しめる」と聞いていたけど、なるほど充実した展示。こんなところで誕生会? と思ったら、職員のお姉さんが誕生会御一行様を引率して、子ども用の展示解説をしてくれるのでした。そして博物館内にあるレンタルルームでちょっとした工作を指導して、最後は隣の小部屋でパーティをさせてくれる。バースデイケーキなども博物館で用意しているらしく、なかなかの充実。
ベンジャミンくんは到着した香音を見つけると、抱っこしてぐるぐる回って迎えてくれた。彼には3歳の気の強い妹がいて、なかなか気の優しいお兄ちゃんなのだ。その妹はというと、私を見るなり「ベニーにちゃんと誕生日プレゼント持ってきた?」と確認するしっかりぶり。そして優しそうなお父さんお母さん、とくにお母さんはスポーティな外見と裏腹に物静か。ちょっとアンニュイにさえ見受けられる。フランス系のファッション誌のモデルにいそうな雰囲気だ。何人か知らない子が居たので「ベンジャミンは以前、別の幼稚園に行ってたのね?」と尋ねたら、「12区の幼稚園に行ってたんだけど、そこの先生と問題があって辞めたの。酷いこと言う人だったし、ベニーは2度ほど叩かれたことがあるの」と、たいへん悲しそうに言った。・・・そこはかとなくアンニュイで、西洋風幸薄系…と感じていたのだが、話すとやっぱり悲し気である・・・。ある意味、来ておいて良かったかもしれないぞ・・・(苦笑)。

10人あまりの参加者の中、幼稚園の友達じゃない3、4人は大きい子たちだったけど、同じ幼稚園からの友達は皆小さい子たちだった。同じクラスにいるベンジャミンの妹と同年齢の子たちが多い。いっしょに来たナーディアの母も双子の誕生会じゃなくこちらに来たのは、娘と妹が同い年だから、と言っていた。双子は6歳になるのだが、どちらもとても利発である。「大きい子は小さい子と遊びたがらないことが多いから」と言っていたが、もうひとり居た3歳の女の子のお母さんなんか、双子の誕生会が今日あるなんて知らなかった、招待されてないわ!と露骨にイヤな顔をしていた。やはり、お誕生会ひとつに親たちの思惑が錯綜するのは、世界共通なのだろうか。この親は街はずれの遊戯場施設で立派な誕生会を開き、かなりたくさんの子どもを招待していた。2クラス全員に声をかけたのかもしれない。その直後にうちでは香音の誕生日があったのだけど、友達の事故死直後で私も内橋さんもかなり落ち込んでいて、盛大に祝う気になれず小さなパーティにした。で、この子は呼んでいなかった…ので、かなり失礼だったかしらと今さら冷や汗が出た。改めでこんど、お詫びするべきかな・・・。こわいこわい。


プレゼントも渡して、ケーキも頂いたところで、次ぎの現場へ。
双子の両親は典型的なキャリアウーマンと多忙なビジネスマン夫妻である。朝時どき会うお母さんはいつもスーツ姿で、完璧な英語を操り、どうやら銀行の保険担当の何チャラカンタラさんである(名刺によると)。お父さんはくだんの香音’s誕生会は土曜だったのだが、双子を連れてきて、「オフィスが近くなので仕事をしてきます」と子らを残して行ってしまった。気になるお住まいは日本的に言うところの2LDKであるが、リビングもふたつの寝室も広めでゆったりとしていて、なかなか素敵でありました。で、誰かの予想通り大きい子を中心にやはりこちらも10数人が集まっている。遅れて行ったらちょうどケーキを食べはじめたところらしく、みんなテーブルについていた。本日2つめのケーキを、母子ともにむさぼるように頂いた。なぜならメチャ美味しかったから(笑)。美味しい!自作ですか? と尋ねたら「もちろん」と言われてしまった。自分ではちゃんとしたケーキなんて作れない、と言っていたベンジャミンのママやお菓子の才能ゼロの私とは貫禄が違う。キャリアウーマンで双子を完璧に育て(てるように見え)る母は、「私の母の流儀や育った地方の伝統では、子どもの誕生日ケーキは必ず作るものなのですよ」と言っていた。まじかよ。双子への配慮か、ケーキは小振りなのをふたつ用意してあり、それぞれ「J」と「M」のカタチになっている。「M」はまだしも「J」は難しかったのではないか。
このお双子さん、女の子はたいへんに独立していて、よく笑うけど冷静でしっかり者。男の子は可愛いくせに落ち着きがなく、いっつもしゃべってるし、しかも常に何かを暴露しているような、かなり面白そうなことを言っている(ようである)。キャリア母さんのそつのない仕切りが続く中、そのまたお母さんたる双子の祖母が、こんどは影絵で人形劇をはじめた。手作りで、動物たちがたくさんでてくる、かなり教育的に正しく美しいものである。香音やわずかな女の子たちは魅了されてじっとみつめていたが、残念ながらほとんどのガキどもはハナっからちゃんと見る気もなく、後ろへまわって勝手に人形を手に好き放題はじめてしまった。必死に防御して物語を続けようとするお婆ちゃんの努力もむなしく、ガキどもにジャックされた影絵劇場は無惨にも占領され、お婆ちゃんはソファに座り込んでしまった。
こんどは子供部屋へ移動し、お鍋遊びがはじまった。こちらでは定番の、子どものパーティゲームである。子どもがお菓子とかオモチャをふせたお鍋に隠しておく。別のふたりの子どもが目隠しをして、料理用の木匙を持って這いつくばり、その匙で床を叩きながら鍋を探す。みんなでかけ声をかけ、目隠しした子を誘導するという遊び。順番に交代で、全員が挑戦。お鍋に隠したのはおもちゃの虫メガネだった。全員に虫メガネがゆき渡ったところで、こんどはお父さんが棒の先にハコをぶら下げて登場。ハコには手作りのデコレーションがハデにしてあり、今からパナマ式のゲームをすると言う。棒で叩いて中に詰まったキャンディをぶちまけ、早い者勝ちでゲット!ってヤツだ。アメリカとかメキシコではロバの人形で木からぶら下げてるアレだ。お母さんがメモを読みながら説明し、律儀にメモを見ながらスペイン語の歌を唄う。順番に、短い曲を歌ってる間だけ用意された棒でハコを叩く。子どもらは容赦なくビシバシ思いっきり叩きつけ、危ないったらありゃしないくらいなんだけど、なかなかハコは壊れない。2巡しても壊れないので、子どもらに気づかれないようにお父さんがハコをこじ開けると、中から音をたててお菓子と紙吹雪と紙テープが降り落ちた。ガキども殺到。大騒ぎ。香音はその騒ぎに興奮してしまい、お菓子をひとつも拾わずただただキャ〜とか言いながら寝ッ転がってバタバタりしている。何してんねん(苦笑)。まわりの大人が失笑しつつ拾ったお菓子を香音にも横流ししてくれた。お菓子が拾い尽くされたら、残った紙テープや紙吹雪をぐっちゃぐちゃにして全員で大騒ぎ。キャリア母ちゃんはさらに紙かざりを補給して部屋中エラいことになるが、お父さんは部屋の真ん中で暴れん坊の子どもたちを一挙に引き受け、色とりどりの紙まみれになりながら大暴れ。小一時間はどったんばったんの大騒ぎとなった。
そのあとソーセージとパン、チーズのホットサンドなど簡単な食べものが出て、お迎えに集まった親たちにはプロセコ(シャンパンかな)がふるまわれ、ほどなくして解散となった。
こっちではお誕生会には子どもを預けて時間になったら迎えに行けば良いらしい。子どもだけお預かりしましょうか、と言ってくれるけども、興奮するとトイレに行くのも忘れるチビだし、何よりわたし自身見学したいので参加してるが、やっぱりお誕生会の主催者たる親は大変。そう思って帰る時、挨拶に「週末ゆっくり休んで下さいね」と言うと、「これくらい、大したことないですよ」とお父さんは笑っていた。子どもを招いてもてなしたりすると、日本の大人は照れ隠しに「いやぁ、まいったまいった」なんて大人同士では言いそうだけども、たぶん招かれた子の親も客である限りそんなこと言わないのだろうか。今まで招かれた誕生会でそんなこと言う大人はいなかったし、気がつくとどの親もイヤな顔ひとつしなかった。それから迎えにきた親も、我が子が悪いことしてないかとかイイ子だったかとか、誰も聞かない。手伝いも片付けもしない。今更ながら冷や汗だけど、香音の誕生日の時はわたしは冗談まじりに「誕生日は年に一回で充分!」なんてわたしは言ってたし、うちん時は片づけてくれた人も居た・・・。
うーむ・・・あんまり反省し過ぎると落ち込みそうなので、楽しかったと終わりたいところだけど、いろいろ勉強してしまった。
っと言っても、次回のお誕生日には小学生に成っている訳で、その頃にはまたお誕生会マナーも変わっちゃっているのかなあ・・・大変だ大変だ。