面白い人見つけました。

 今日は朝からヴィザ更新申請手続きの続きのため、朝からヘルゲと。
ずっと内橋さんが行ってたのだけど今彼はニポンなので私が。
香音は水着を持って遠足の日。Prater に行って、水浴びをするらしい。きのうからたいへん楽しみにしていた。
早々にフォシューレに送り届け、さっさと帰宅しヘルゲを待つ。法律が変わって、ネイティブの彼が問い合わせや付き添いをしてくれても、毎回新たな書類を要求されたり「これが足りません」の郵便が来たり、窓口も把握しきれてないみたいで大変である。これはこれとして。

気が張ってたので疲れて、帰ってから昼寝して(アホ)、お迎えのあともうひとつ用事。
9月から行く学童の申し込みとご挨拶に行くのだ。申し込みは仮にペテルスガッセの担任がしてくれていたけれど、担当のシスターに会いに行って下さい、と言われていた。で、必要は無かったけどこう言う時は本人連れて行く方が気分的に良いはず、と思い実践。お迎えに行くと香音は満面の笑顔。遠足、今日も楽しかったのね。良かったねー。

ここはカソリックの教会系で、大きい病院と幼稚園と学童がある古いところ。ペテルスガッセ校のすぐそばにある。
「学童」と言っても、小学校に迎えにきてくれて、クラスと教室がちゃんとあってみんなでランチを戴き、歯を磨いて宿題をし(先生が見てくれる)、庭や図書室で遊んだり集ったりする、放課後学校とでも言うべきものだ。そして特に、ここはカソリックの古い学校らしく、なんと男女でクラスが分かれている(!)。それはどうかな、と思ったけど、小学校の担任は「ずーっとだったら良くないけど、午後のある時間だけというのは良い面があると思う。カノンにはきっと落ち着ける場所と思いますよ」と言う。試してみるのも人生だ!

 最初に通されたところは庭。古いレンガの塀と屈強な扉に囲また中には、大木や起伏のある遊び甲斐のありそうな庭。
入って担当の先生に会うと、すぐさま男の子が「カノン!」と駆け寄って来る。ペテルスガッセのクラスの子だ。先生に「9月からボクのクラスに来るんだ!」と紹介してくれる。香音は一緒に遊べるのかとすぐさまリュックを投げ出しそうになっているが、3階にいらっしゃるシスター・ブランカのところへ行くようにと言われる。
3階は女の子の教室があって、古いけれど落ち着いた雰囲気。小さなマリア像のある聖台があったり、廊下に個人のワードロープが並んでいたりして、ミッションスクール子ども版、と言う感じがしないでもない。
シスター・ブランカはテラスのベンチで書類を見ておられた。
70は過ぎておられるであろうおばあさまだ。真っ白な僧女の夏服が、白を意味するお名前にぴったり。
「シスターブランカさんにお会いしたいのですが」というと、「わたくしです、どうぞ」と座ったまま言われる。
医療用の杖が傍に置いてあるので、わたしも座って挨拶をする。
9月から行く学校に紹介され、こちらの学童に来たいので参りました、と言うと、樹木希林が美しく老けたようなおばあさまは「しかしもう席がありません」とおっしゃる。皆さん春先に申し込まれます、今日来てももう遅いです、と表情ひとつ変えずにおっしゃる。慌てた私はしどろもどろになりながら説明すると、薬缶のお湯を思い出したかのような顔をして「ああ!ペテルスガッセの、ああ!フォス先生ですね、ええ聞いています。今思い出しました」と、またほとんど表情を変えずに言いのけられた。樹木希林
一瞬ヤバい!と慌てたので、思い出された瞬間はもうしばらく話を戻せないくらい、私はホッとした。
その狼狽ぶりに香音はぽかんとしていたが、やりとりをしっかり聞いていて「おせきはあるって? あるよって、おっしゃったね?」と笑っている。「まま、びっくりしたねー」。なんだか落ち着き払いやがって、お姉さんになってるじゃないの。

そのあと、希林シスターは必要事項をわたしから聞き出し、ゆっくりメモを取られる。どうやら書類を代筆して作って下さるみたいだ。わからないことがあると、「じゃあ、フォス先生に電話して聞いておきますよ」と言って下さる。私や夫の職業を訊かれたので答えると、希林な顔のままジロリと私を見て「それは面白い…」と頷く。たいへん味のある方だ。香音が何か言うと、乗り出すようにじっとご覧になって、言葉を交わす。ウィーンに来てどれほど経ちますかとおっしゃるので、一年経ちました。と言うと「それにしてはドイツ語をよく理解していますね」と、希林なまんま眼を丸くされる。一瞬えへっと思ったら香音のことだった。
ホルト(学童)へのお迎えは、予告があれば何時でも良い、時間の変更があれば、それにあわせて宿題を済ませます、上履きと歯ブラシを持ってきてください、8月と祭日以外はずっと開いています、必要にあわせて利用すれば良いです、すべての情報は9月初日にお渡ししますから大丈夫…。簡潔に、言葉を味わうように丁寧に、私の眼をじーっと見つめて話して下さるシスター・ブランカから、そこはかとなく、宗教者特有の穏やかさが伝わって来る。少し話しているだけで、心の底から信頼したくなる感じ。はじめてペテルスガッセの担任のドリスと見学に来た時はいらっしゃらなかったが、その時ドリスは彼女のご不在をとても残念がっていた。その意味がようく解るような、とても素敵なおばあさまである。
香音はニコニコして、とても行儀よくしていた。その香音には、やはり乗り出すように話しかけて、食事の後は歯磨きしましょうね、9月からは午後ここに来るのですよ、あそこのお部屋があなたのお部屋。自由に部屋を覗いてらっしゃい、9月にお会いしましょう、と面談終了。最後の最後に、「さっきは席が無いなんて驚かせて、ほんとうにゴメンなさいね。悪いことをしたわ」と握手して下さった。その時はじめてにっこりされたけれど、そのほかはまったくニコニコしないのに、でもとっても話しやすく癒されるハーモニーがあって、とっても不思議な方だった。

香音は「みんなでランチを食べるがっこう」と認識して、大喜び。
階段もすたすた降りて、そんな自分を「ほうら、はやいでしょ? すごい? ぱぱよろこぶ?」と言う。途中トイレに行ったけど、もちろん子ども用にしつらえてあるので自分でホボちゃんとできて御満悦。受付にいらした方が、そんな香音に眼を細めて、話しかけてくる。きちんとご挨拶をして、ちゃんと自己紹介する香音。ノリノリである。受付のおばさんはすっかり喜んでくれて、香音の名前をメモに取り、「9月を楽しみにしていますよ!」と言う。私が、ありがとう、さようなら、良い夏休みを、と言うと香音も懸命に口真似て言ったので、おばさんは豪快に笑って手を振ってくれた。表に出ると、香音は悪戯っぽく笑って、「おばさん、ひとりでなんかたべてたね、つまみぐいだね」とこっそり言った。


フォシューレで夏の帽子をなくしてしまったので、帰りに新しく買うことにした。倹約倹約!と安いのにしたけれど、バーゲンだったので一枚カットソーを買ってしまった。香音のだけど。加えて、去年買った、粗末なサンダルがちびてしまってきちんと履けなくなっていたので、靴屋さんに行った。炎天下で疲れているのに、途中でアイスクリームを買ってあげたらお家に着くまでゴネたりせずよく歩いてくれた。倹約を心に誓った私は、靴屋を3件回ってやっと決めた。がんばったので、安い上に見た中で一番足に良さそうなのを選べて満足! しかも、強風波浪警報吹きすさぶような己の物欲にも打ち勝ったので、こっそり自分も誉めながら帰った。

ヴィザの件はほんとに大変で心配したらとんでもなくキリがないのだけれど、シスター・ブランカに癒されたのでやっぱり今日は良い日だった。