木曜日。

 香音が学校に行ってる間に、まず税務署的Finanzamtへ徒歩。ぶらぶら歩いているとなんとかたどり着け、土地勘の良さを内橋さんに絶賛される。10年ほど前は某大物ミュージシャンに「新宿駅からピットインまで歩かせるのも心配なくらいの方向音痴」と言わしめた私であったが(涙)、ウィーンの町並みについては歩いて歩いて、いや迷って迷ってやっとこさこれだけ進歩した。愚痴らせて頂くならば、ウィーンの人は得てして場所の説明が下手だ。凄く下手だ。ウィーンを訪れて道ばたで人に尋ね、とんでもない返答に振り回された友人は少なくない。だいたい総ての通りに名前がついているので、地図を用いれば住所さえわかったら行けないところはないはずなのがこの街。知らないところの話でも、皆たいてい通りの名前と番地だけ教えてもらう。それでどうにかなるはずで、実際タクシーなんかだとまともな運ちゃんは住所を言えば連れてって見つけてくれる。だから逆に、目印とか有名なポイントとの立地関係を説明できない人が大半なのだ。

税務署での用件は結局ヴィザ待ちということで(なんとまだ待機中の我々!)、先延ばしになったもののヤケにスッキリして、こんどは内橋さんの「買い物したい」熱におつきあい。シュラクトハウスガッセから路面電車に乗り、とんでもないところで降ろされ(よくわからんが、電車の不具合?)、シュテファンプラッツへ地下鉄で戻ってもまだ9時半。服屋なんか開いてない。思えば早起きになったな、私たち…。
ナッシュマーケットへ歩き、遅めの朝ご飯を食べ、マリアヒルファー通りへ。ぶらぶらぶらぶら、マリアヒルファーやらノイバウやらやったら歩き、もう一回ステファンへ戻りそれでもまた歩き…。結局、わたしが衝動買いできたものの内橋さんは何一つ変えなかった。どうやら慎重に吟味しすぎて何も巡り会えなかったらしい。不器用なのは高倉譲りか。

お迎えに行った香音はすこぶる元気で、すっかりシューレもホルトも気に入った模様。
シューレでは「嬉しい時、カノンは“イェ〜イ!!”と両腕を挙げて喜びますね」と指摘される。そう言いながら、先生は香音に「カノン、シューレが終わったらホルトだよ」と言って目の前で「イェ〜イ!」を言わせて笑っている。しかも、香音がホルトではランチを食べられるから大喜びしている、ということも見抜かれている(笑)。

夜、三人で近所のイタリアンへ晩ご飯に。
内橋さんは金曜からポーランドツアー。その後NY、ボルティモア、そして日本。次に帰るのは10月後半なので、道ばたのお席で食事できるのも今年は彼には最後? 10月でもできるかな? 無理かな? というところである。
三人それぞれ山盛りのパスタ食べて(ここのは去年ことごとく空振りだった南イタリアより美味しい)肉を待ってる間、内橋さんが香音に語りかけた。
明日から仕事へ行くからしばらくいないけど、学校楽しんでね、お勉強がんばってね、ママの言うこと聞くんだよ。
最初の一行を聞いた時点ですでに、香音は「えーっ! いっちゃうのぉ?」と言ってうつむいてしまった。それを見て内橋さん、「嗚呼、ごめんよぉ」と言って涙ぐむ。
追い討ちをかける様に香音、「がっかりぃ…」。
ひたすら涙ぐむ父。

悪妻鬼母はその横で、ワイン飲みながらゲラゲラ笑っていたのでした。